センターの概要

長期の海外旅行・出張、または留学を行う渡航者の皆様の健康管理を目的とした専門外来を開設いたしました。
 感染症対策は社会にとって最も重要な課題の一つです。一言に感染と言いましても、個々の個体の感染症にはじまり、病院内での感染症のアウトブレイク、国内のみならずアジア、世界に広がった薬剤耐性菌の蔓延、さらには数年前の重症急性呼吸器症候群(SARS)、そしてインフルエンザといったグローバルな感染症まで、その対策は多岐に渡ります。感染症診療、院内感染対策に関しましては、これまでは院内の感染制御部で対応してきました。しかしながら、今後は地域の各医療機関および行政機関と一体となり、情報を共有しながら、九州大学病院のみならず地域全体の住民の皆様の感染症対策・予防を担っていく必要が求められてきます。以上のことから、九州大学病院感染制御部を発展させ、新たにグローバル感染症センターを平成23年11月より開設し、活動を開始致しました。今後は、地域の医療機関に対する情報提供・啓発、人材育成、研究、診療をさらに推進することが可能であると考えます。また、地域のみならず東アジア全体を視野に入れた迅速かつ適切な感染症対策を講じ、社会的ニーズに即応した体制の確立を目指していきます。

主な業務・活動

ICT活動

 平成13年に院内感染対策検討WGが発展し、インフェクションコントロールチーム(ICT)が設置されました。ICTの設置と同時にICT活動をサポートする役割として各診療科に感染対策担当者、各病棟に感染対策担当看護師(リンクナース)が配置されました。平成14年には病院内の感染対策に関する諮問機関である院内感染予防委員会の下部組織と位置づけられ、医療安全管理部との連携や検査部、薬剤部、医療情報部、栄養管理室のバックアップ体制が明確にされました。その後、平成23年11月にグローバル感染症センターが開設され、引き続き活動を行っております。
 ICT設置と同時期より1回/月の感染制御部会を定例で開催しています。医師、看護師、医療技術部などにより構成されている感染対策担当者会議を20年度より1回/月開催しており、令和元年度現在の感染対策担当者は88名となっています。リンクナース定例会は13年よりリンクナースの教育および感染対策の情報交換(提供)の場として1回/月開催し、院内の環境管理や感染対策の実施状況の監視を行っています。ICTラウンドは平成19年度より開始し、標準予防策と感染経路別予防策の教育とその実践における監視指導を行っています。
 その他に院内感染対策マニュアルの改訂や感染対策に関するサーベイランスを行っています。サーベイランスの実施は、血流感染サーベイランス、尿路感染サーベイランス、手術部位感染サーベイランス、耐性菌サーベイランス、針刺し切創サーベイランスを実施し、結果のフィードバックと共に感染率低下に向け有効な感染対策を実施・指導を行っています。

AST活動

 近年、感染症の原因となる細菌に対して抗菌薬が効かない薬剤耐性(antimicrobial resistance, AMR)が問題となっています。我が国でも平成28年4月にAMR対策アクションプランが決定されました。AMR対策として、適切な抗菌薬を必要な場合に限り、 適切な量と期間使用することが求められております。平成30年4月より院内に抗菌薬適正使用支援チーム(AST:Antimicrobial Stewardship Team)を設置しました。ASTの活動内容として、血液培養陽性患者の全症例モニタリング、抗MRSA薬等の特定抗菌薬の使用開始症例、広域抗菌薬長期投与症例について主治医へ助言を行っています。検査や使用抗菌薬、治療方針などの評価を主治医にフィードバックすることで感染症診療の支援を行っています。
 また、年1回院内アンチバイオグラムの作成を行い、抗菌薬を適切に選択するための指標のひとつとしています。抗菌薬使用状況や血液培養複数セット提出率などのプロセス指標や、耐性菌発生率や抗菌薬使用量などのアウトカム指標は、定期的に集計、評価し、職員への周知を行っています。抗菌薬の適正な使用を目的とした職員の研修も定期的に実施しています。さらに、他の医療機関から必要に応じて抗菌薬適正使用の推進に関する相談等を受け付け、支援を行っています。

院内感染対策

 細菌検査室から報告をもとに、院内の感染症情報について他職種における情報交換を行い、病院感染が強く疑われる場合には、分離菌株の遺伝子解析を行い、感染経路について検討し介入を行っています。MRSA、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBLs)産生菌、メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生菌などの耐性菌を中心とした分離菌状況を、週報・月報として報告しています。また、菌血症例については検出菌、抗菌薬使用状況、臨床経過を検討し、主治医と適切な抗菌薬投与について討議しています。
アウトブレイクが疑われる場合は緊急対策会議を開催し、直ちに拡大阻止をとっており、また、針刺し事故に対する対応も行っています。新規採用者へのワクチン接種(B型肝炎、インフルエンザ、麻疹、水痘等)を行っています。

耐性菌ラウンド

 上記の耐性菌検出時や院内感染対策上重要となるクロストリジウム・ディフィシルなどが検出された場合には、ICTメンバーが直接病棟に出向いて、検出菌、抗菌薬使用状況、臨床経過を検討し、感染予防対策の指導を行っています。

ICT交流会

 九州大学病院関連病院を中心とした北部九州の地域医療機関を集めたICT(Infection Control Team、感染制御チーム)交流会を組織して、お互いの知識向上に努めています。定期的に交流会を行い、地域医療機関の病院感染対策に貢献しています。グローバル感染症センター設置により、さらに整備・拡大し、教育・啓発、人材育成プログラムを実施することで、地域医療機関の感染症対策に取り組んでいきます。